胃のバリウム検査、イマイチ体位と胃の向きが理解できない・・
という胃透視バリウム検査にまだ慣れてない技師さん・学生さんへ。
胃のバリウム検査の画像って、胃がどっちを向いていて、患者さんがどんな姿勢の画像なのか分かりにくいですよね?
僕も始めたての頃はぜんぜん分からなくて苦労しました・・
決まったパターンの画像を撮れるようになっても、修正の仕方が分からない、みたいな。
この記事では、そんな過去の自分のように苦労しておられる技師さん・学生さんに向けて
について解説していきます。
この記事を読めば、胃のバリウム検査の経験が浅い方・未経験の方でも、胃の画像と角度について理解できるようになります。
プロフィール
検診施設で働く放射線技師。かつて総合病院に勤務するも職場環境が合わず、「5時ピタ定時」だけを目指すモチベ底辺のクソ技師として毎日を過ごす。その後メンタルを壊し、技師を辞めて医療に関係のない他職種へ転職。「自分が職場に何を求めるのか」を見つめ直し、検診施設で技師として復帰。今では月曜日がまったく憂鬱に感じないくらいポジティブに働く。
という方の誰もが前向きに自分の人生を歩めるように、実体験を交えたお役立ちコンテンツを発信中!
僕は現在、検診施設でひらすら胃透視検査をやりまくってます。
日々の業務を通して分かった撮影のコツなどについても、お話できればと思います。
初心者の方には、参考になるかと!
ぜひ最後までご覧ください。
※このページで表示している「胃と身体の3D画像を並べた各体位の画像」「胃のイラスト」は、すべて僕が自作したものです。無断で転載などなさらないようお願いいたします。
胃がん検診の基準撮影法について
基準撮影法は2種類ある
胃がん検診には、ガイドラインで定められている撮影法として2種類があります。
対策型 | 集団検診など。撮影は8体位。 |
任意型 | 人間ドックなど。撮影は食道+胃10体位+胃圧迫4体位 |
僕が働いている施設では「任意型」を採用しています。
ですので、この記事では「任意型」の撮影法について解説させていただきます。
ちなみに、胃がん検診専門技師という認定技師の制度があります。
このような認定を撮るためには、基準撮影法の理解が必須となります。
認定制度についての詳細は 日本消化器がん検診学会のホームページ をご覧ください。
書籍を用意して勉強した方がいい
ちなみに、今回の記事を執筆するにあたって参考にした書籍はコチラです↓
これから胃バリウム検査を担当する方、学習する方は、この書籍に限らず、何かしらの専門の書籍を購入されることをオススメします。
ネットに散らばっているような断片的な知識では、基礎を固めることは難しいです。
また、
胃バリウム検査の専門の書籍には、症例がたくさん載っている
というメリットがあります。
胃透視検査は、時間経過によりバリウムが流れて行ったり、胃から空気が抜けてしまったりと、焦りやすい検査です。
特に胃透視検査に不慣れな間は、決められた撮影法の画像を撮るのに必死で、肝心の病気を見逃してしまう確率が高いです。
慣れない頃は、僕も病気を見逃した経験があります・・
普段から症例の画像を目に焼き付けておかないと、焦りながら撮影している中で病気に気付くことは難しいです。
症例がたくさん載っている書籍を用意して、万全の体制で検査に臨めるようにしましょう♪
胃がん検診の基準撮影法(任意型)の体位変換の流れ
胃がん検診のガイドラインに則った撮影法(任意型)について、解説していきたいと思います。
基準撮影法(任意型)の内容としては、こんな感じです↓
それぞれの体位について、確認していきます。
①背臥位:正面位
体位の説明
まず食道の撮影を終えて、ベッドの上で患者さんにローリングしてもらったら、まず最初に撮影する体位です。
誰でも簡単に撮影できて、検査を担当する技師に左右されにくい撮影になります。
ですので、胃の形状・粘膜・ひだの状態を確認するための基準にもなります。
高齢の方や、体位変換が苦手な方は、ローリングによって息が上がっていることがあります。少しだけ待ってあげてから、お腹が動かないように息止めをしてもらって撮影しましょう。
ポイント:ローリング後の泡
患者さんがローリングを終えたばかりの状態で撮影することになります。
意外と全体的にプツプツとした泡が残っていたり、ドロっとした胃液が穹窿部に向かってゆっくり流れていたり。
少し待ってから撮影すると、泡が消えることも。
もし待っても泡が消えない場合は、再度ローリングするか、そのまま撮影して、後から「これは泡です」とレポートに記載できるといいです。
画像のクオリティをどこまで求めるかは施設によってくると思います。先輩技師さんの撮影した画像をチェックして、どれくらいの画像の質で運用しているのか確認しましょう。
ポイント:バリウムの誘導
穹窿部は、向かって奥側に凹んでいるので、バリウムは自然と穹窿部に溜まります。ですが、胃角が邪魔をして、幽門部側にも少しだけバリウムが溜まって残ることも。
その場合は
- 右腰を上げる
- ベッドを少し起こして、またフラットにする
という操作をすると、幽門部に残っていたバリウムを穹窿部に流すことができます。
②背臥位:第1斜位 RAO
体位の説明
正面から右腰を上げてもらい、第1斜位RAOとなります。
RAOにすることで、胃角の形がキレイに見えるようになります。(人によって、胃の向きは異なるので見えないことも)
正面の撮影時に、バリウムをきちんと穹窿部に流せていた場合は、RAOにしたときにバリウムが動くことはありません。
二重造影になっているうちに、ササっと息止めをして撮影を終わらせましょう。
ポイント:胃角の描出
RAOでの撮影では、できるだけ胃角のカーブをきれいに描出しましょう。
患者さんによって、右腰を上げすぎていたり、逆にぜんぜん上げていなかったり、まちまちです。
胃角のカーブがきれいに見えるように、微妙な右腰の上げ下げを指示します。
胃角部は病変が多いエリアになります。丁寧に角度の調整をして頑張って描出しましょう。
ポイント:前庭部・幽門部のふくらみ
胃は蠕動運動をしているので、前庭部・幽門部が膨らんだり縮んだりします。
RAOの撮影時は、前庭部・幽門部が見やすい角度になります。
先ほどの胃角が見えるように調整することに加え、前庭部・幽門部がしっかりと膨らんで見やすいタイミングで撮影するように気を付けましょう。
③背臥位:第2斜位 LAO
体位の説明
次は第2斜位LAOです。患者さんに左腰を少し上げてもらうことで描出できます。
左腰を上げることで、後壁の小弯側が見えやすくなります。
ポイント:バリウムが穹窿部から流れやすい
先ほどのRAOと違い、LAOではバリウムが穹窿部から胃体下部の方へ流れていきやすいです。
特に、「左の腰を上げてください」と指示をしたときに、患者さんが腰を上げすぎたり、勢いよくあげてしまうとバリウムが流れやすいです・・
バリウムが流れてしまうと、胃体下部や前庭部側が見えにくくなってしまいます。
いったんRAOに戻して検査台を起こして寝かせるというひと手間をやり直すことになります。
時間のロスにもなりますし手間がかかるので、穹窿部からバリウムが流れ出てこないように気を付けましょう。
患者さんに指示するときに「ゆっくりと、少しだけ左腰を上げてください」などと指示をすると、バリウムが流れにくいです。
④腹臥位:正面位(頭低位)
体位の説明
次は、おそらく苦手に感じる撮影のNo1である腹臥位の撮影です。
患者さんにとっても、一番ストレスがかかる撮影かと思われます。
背臥位のときは、穹窿部が下側に向いていてポケットみたいになっていたため、バリウムが勝手に溜まってくれるおかげで撮影は簡単でした。
ですが腹臥位の場合は、穹窿部のポケットは真上側に向いてしまい、バリウムは溜まってくれません。
なので、頭低位にして無理やりバリウムを穹窿部・胃体上部側へ流す必要があります。
また、理想の胃の見え方は、背臥位正面で撮影した胃の左右対称の形です。(ただ、かなり難易度は高いです。あくまで目標として認識する程度で)
ポイント:タオル圧迫による胃の矯正
腹伏位では、みぞおち近くにタオルを入れることで胃の形を矯正し、バリウムを胃体下部・中部から上部側へ流しやすくできます。
個人的な経験から言うと、タオルは胃体上部に設置できると、うまくバリウムを流しやすい印象です。
タオルを設置するポイントについては、参照する書籍によって説明が違っていたりするので、結局のところは自分で試行錯誤してコツを掴むしかなさそうです・・
ただ、やみくもにタオルを設置して検査を繰り返すだけでは、タオルを入れた位置による成功率が分かりにくく、自分のスキルアップにつなげにくいです。
そこで、タオルを設置する前に、透視を出して、「ここにタオルを設置したい!」というポイントを照射野の中心に合わせましょう。
そして、透視装置の照射野ランプをつけて、実際に患者さんのどのあたりに照射野の中心が来ているのかを確認してからタオルを設置してみてください。
このやり方で試行錯誤すれば、胃の矯正がうまくいくタオルの設置場所を自分で把握できるようになってきます。
ちなみに、瀑状胃(ばくじょうい)という穹窿部が背中側に強く湾曲している胃の形の場合は、腹臥位の撮影がかなり難しくなります。
穹窿部にある空気が胃体下部側に出てきてくれないために、バリウムを胃体上部側に流すことが困難になりがち・・
⑤腹臥位:第2斜位 LAO(頭低位)
体位の説明
腹臥位の正面から、患者さんに右腰を上げてもらった姿勢になります。
正面よりも、こちらの姿勢の方がバリウムが胃体上部側に流れてくれやすいので、正面の撮影よりは比較的かんたんに描出できます。
ポイント:空気の流出に注意
患者さんに右腰を上げてもらいLAOにすればするほど、バリウムが胃体上部側に流れてくれて簡単に撮影できるようになります。
ですが、LAOの姿勢にしていると、幽門部が高い位置に来るため、胃の空気が十二指腸に逃げていきやすいです。
ですので、撮影を簡単にしたいからといって、LAOにしすぎるのは注意です。また、撮影をササっと済ませて、なるべく空気が逃げていないうちに、検査台を元に戻すようにしましょう。
⑥腹臥位:第1斜位 RAO(やや立位)
体位の説明
腹臥位ではありますが、この撮影は簡単です。検査台を少し起こしてバリウムを胃体下部側に溜めて、胃体上部側を観察します。
患者さんにはRAOの姿勢になってもらいます。左腰を上げてもらっても胃の向きがうまく正面から変わってくれない場合は、左の肩も浮かせてもらうと、きれいに描出しやすいです。
ポイント:空気量
ひとつ前の腹臥位LAOのときに胃から空気が抜けてしまっていると、この撮影のときに胃がしぼんでいます。
もししぼんでしまっていたら、発泡剤の追加を検討しましょう。
また、逆流性食道炎の患者さんの場合は、この姿勢になったときに噴門部がパカっと開いているのが観察できます。
頭低位のときに逆流していたバリウムが、この撮影時にダラ~っと戻ってくるのが見えたりもします。
⑦側臥位
体位の説明
患者さんに完全に横向きになってもらいます。
ただ、横を向いているようでも、微妙に上半身が天井のほうを向いていたり、逆にうつぶせの方向に倒れていたり・・
意外と完全な横向きになってくれてないパターンもあります。
患者さんの体位の目安としては、胃の噴門部がちょうど胃の中央にくる角度を狙うと分かりやすいです。
ポイント:穹窿部に残ったバリウムを流すには
多くの患者さんは、ぐるっと回転してきた流れで側臥位になるだけで、きれいにバリウムが胃体下部側に溜まって描出できます。
ですが、穹窿部が背中側に回り込んでいるような瀑状胃(ばくじょうい)の患者さんなどでは、横を向いただけでは結構な量のバリウムが穹窿部に残ってしまうことがあります。
このままだと、残ったバリウムが邪魔で胃体上部・穹窿部の粘膜の観察ができません。
そこで、患者さんに、横向きから「いったんうつ伏せ」になってもらい、またゆっくりと真横向きに戻ってもらいましょう。
こうすることで穹窿部側に残っていたバリウムが胃体下部側に流れてくれます。
ただ、この指示は患者さんが体を動かす方向を間違えやすいので注意しましょう。
患者さんにとっては、ここまでずっと「右回り」をしてきたはずです。ところが、今回の「いったんうつ伏せ」から「真横向き」に戻ってもらうときは、90°程度ではありますが、「左周り」となります。
患者さんが勘違いして「右回り」をしてしまうと、また穹窿部にバリウムが溜まってしまいます。患者さんが理解しやすいように、技師は声かけのセリフを分かりやすく工夫したほうが良いです。
⑧背臥位:第2斜位 LAO(シャツキ位)
体位の説明
検査台を斜めに起こして、患者さんにはLAOになってもらいます。シャツキ位と呼ばれる撮影です。
教科書などに載っている画像では、穹窿部に少しだけバリウムが残っていることが多いです。(絶妙に穹窿部側にバリウムが流れやすい角度なので・・)
ですが、先ほどの側臥位のときに穹窿部のバリウムを取り除いていれば、シャツキ位ではバリウムが穹窿部に残っていない状態での撮影ができるはずです。
ポイント:穹窿部へバリウムが流れるのを防ぐ手段
シャツキ位の姿勢は、バリウムが穹窿部側に流れやすいです。
患者さんが勢いよく体を動かしたりすると、あっという間に穹窿部へ流れてしまいます。
これを防ぐ手段として
という方法が効果的です。
検査台を起こすほど、角度的にバリウムは穹窿部に流れにくくなります。
起こし過ぎると、胃がバリウムの重みで下側に伸びていき、立位っぽくなってしまいます。やり過ぎに注意です。
(あくまで、バリウムが穹窿部に流れて撮影がうまく行かないときの対処法として)
また、患者さんに指示をするときに「ゆっくりと身体を倒してください。はい、更にあと少しだけ身体を倒してください。」みたいな感じで、少しずつ段階を分けて体位変換してもらえば、勢いあまってバリウムが穹窿部に流れてしまうのを防ぎやすいです。
⑨背臥位:第2斜位 LAO(振り分け)
体位の説明
振り分けでは、患者さんに身体を左右に交互に向けてもらったあとにLAOにして、バリウムが小弯側をダラ~っと流れているところを撮影します。
検査の序盤で撮影したLAOのときに比べて、穹窿部側にあるバリウムの量が少ないので、序盤のLAOでは見えなかったエリアも描出されています。
また、バリウムを流すことで、隆起性の病変があればバリウムをはじいた画像を撮影することができます。
何度もバリウムを流して、やっと描出されるような「バリウムが乗りにくい病変」があったりもします。
体位変換しながら透視を確認することは大切な作業です。
ポイント:バリウムが流れる位置の調整
振り分けの撮影はLAOで撮影するはずですが、大弯側で気になる病変があった場合は、RAOにすることで、バリウムを大弯側でダラ~っと流すこともできます。
気になる病変があれば、そこにバリウムが流れてくれるように、RAO~LAOの角度の試行錯誤をしてみましょう。
⑩立位:第1斜位 RAO
体位の説明
最後に立位での撮影です。直前の振り分けなどでは微妙な角度調整などが多く気を遣いますが、立位は検査台を立てるだけなので、最後はラクな撮影になります。
患者さんにRAOになってもらいますが、角度がキツすぎると幽門部側が胃体にかぶってしまうので注意が必要です。
ポイント:空気が足りないときの応急処置
ここまでくると、検査の後半ということもあって、胃から空気が抜けてしまい、立位での撮影で空気が足りないという場面も多いかと思います。
ですが、残すところ圧迫撮影だけになるので、ここで発泡剤を追加するのはタイミングを逃してしまった感が否めませんね。
(気になる病変がある場合は、きちんと発泡剤を追加するべきです。ここでは、あくまで病変がなさそうだけど、空気が足りないというパターンのお話です。)
いまさら発泡剤を追加するのも気が引けるなぁ。
と困った場合は、応急処置として、患者さんに息止めをしてもらうときに「思いっきり」息を吐いてもらいましょう。
「息を吐いて~、もっと吐いて吐いて~~」(ピっ!)
みたいな感じで、息を吐ききったタイミングを見計らって息止め無しで撮影しちゃいましょう。
すると、意外と胃の穹窿部が上方向にびよ~~んと伸びて、観察方向を広げた状態の画像を撮影できます。
ここで、どうして息止め無しにしたのかというと。
息止めをすると、伸びた胃が少し縮んでしまうからです。
息止めを指示すると、患者さんはどうしても力んでしまい、せっかく息を吐きまくって伸びていた胃が少し縮んでしまいます。
この撮影に限らず、息を吐きまくって息止め無しで撮影するというテクニックも、意外と使えるので、覚えておいて損はしないと思います♪
胃がん検診の基準撮影法(任意型)のコツ【まとめ】
以上、胃がん検診の基準撮影法(任意型)の体位変換の流れとコツについてでした!!
コツの部分では、僕が現場で実践している小技も紹介させてもらいました。
教科書的には推奨されていない方法だと指摘される可能性もゼロではないですが、患者さんに合わせて描出範囲を広げる工夫をするのが正解だと思ってます。
ガイドライン通りの撮影がうまく行かないときに、思い出して試してみてください。
逆に、「こうすると撮影がしやすいよ♪」というようなコツが他にあれば、教えていただけると嬉しいです。
僕もスキルアップしたいので、小技があれば教えていただきたいです。
もし、オススメの方法やアドバイスをいただける場合は、僕の X(Twitter)にご連絡をいただけると喜びます。
今回の記事が、胃のバリウム検査の初心者さんや学生さんの理解に、少しでもお役に立てれば幸いです。
それでは!
脚注
<3Dモデルのデータについて>
解説画像の作成には、ダウンロードした3Dモデルのデータを使用しています。
人間:cgtrader https://www.cgtrader.com/free-3d-models/character/man/free-base-man-mesh
胃:skechfab https://sketchfab.com/3d-models/stomach-f4ccc8dd0f124d2d9f1d8d4db676e217
※著作権を侵害する意図はございません。